「そうだな、焦らずにいくか。じゃ、戻ろうか」
赤池くんはそう言い、席をたった。ぼくも続いて立ち上がり、赤池くんについて食堂を出たところで、大事なことを思い出した。
「あ」
「どうした?」
「鍵。三洲くんが持ってるんだ。ぼくのは、部屋に置いて来ちゃった」
「あ、そうか。うっかりしてたな。生徒会室に行ってみるか?」
「や、三洲くんの邪魔はしたくないし、いいよ。赤池くんの提案どおり、談話室に行ってみようかなと思うんだけど、どうかな」
「それは構わないが……疲れているんだろう、葉山」
赤池くんは少し考えて、ああ、と顔をあげた。
「あんまり人に会いたくないんなら、この時間は学生ホールなら人も少ないだろうけど」
行くところがないぼくにとっては、それはかなり魅力的な提案だけれど。
「赤池くん、つきあってくれるのかい?」
「そう言ったろ?」
あんな、グラウンドの向うにまで?
こともなげに即答した赤池くんをまじまじと見ていると、赤池くんはふっと笑った。
「なんだよ、葉山。葉山の面倒をみるのは、今にはじまったことじゃないって言っただろ。そんなに驚くな」
そう言って、ぼくの髪をくしゃっとなでる。
確かに、この手に触れられるのは、初めてではない気がする。
この二年間に、赤池くんとぼくの間に、一体何があったのだろう。
いつもギイの隣りに見慣れた赤池くんが、ぼくの隣りでこうして笑いかけてくれるその理由が、ぼくは気になっていた。
1