その夜は、はやめに休むことにした。
検査や急な環境の変化などのなんやかやで、やっぱり疲れていたのだ。
新くんが食事も部屋に運んでくれて、今日は面会謝絶にしてくれたようで(というか、利久以外にぼくを心配して来てくれる友人が居るのだなんて、これもちょっとびっくりなのだけれど)、静かな207号室の中で、時間はゆっくりと過ぎていく。
寝る準備をしていると、新くんもパジャマに着替えはじめた。
「新くんももう寝るの? あの、ぼくは電気つけたままでも大丈夫だよ?」
「いや、たまには早寝もいいかと思って。ここのところ忙しかったし、丁度いいから」
そうか、そう言えば新くんは生徒会長なんだって言ってたな。納得しながら左側のベッドに入ろうとすると、新くんに注意をうけた。
「託生、そっちじゃないよ」
「え?」
でも、ぼくの机や棚は左側みたいだし、ベッドだけ逆? それって、ちょっと変。
「ぼくのベッド、こっちじゃないのかい?」
「いや、そっちで合ってるよ」
じゃ、なんで?
「託生はいつも俺のベッドで寝てるから」
「ベッドを交換してるってこと?」
「……あのね、なぜそんな必要が?」
交換しているわけではない、とすると、
え…?
ええっ!?
「じゃ、その、ぼくたちふたりで一緒に寝てたってこと!? そ、それ、ほんとに?」
とてもじゃないけれど、信じられない。
「ほんとだよ」
新くんはくすっと笑って、肩をすくめた。
「無理にとは言わないけれど、いつも通りにしていたほうが、記憶を思い出しやすいかなと思って。『恋人らしく』しろだなんて言わないから、一緒に寝よう? 託生」
そうは言われても。
いくら触れられるのが平気になっていても、やっぱりいきなり人と一緒のベッドで眠るだなんて、気が引けてしまう。
でも、ぼくがいつも新くんと眠っていたというのなら、今の、三年のぼくの『普段どおり』にしていたほうが、記憶が戻りやすいかもしれない。
ぼくは意を決して、顔を上げた。
「新くんがそう言うんなら、一緒に寝る」
「ありがとう」
新くんはまた笑った。
もしもこのまま記憶が戻らなくても、新くんのこの笑顔が、ぼくは好きになりそうだ。
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