裏コイモモ
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それからぼくは、今のぼくのことや、この二年間に起こったことを新くんに聴きながら午後を過ごした。思っていたよりもずっと祠堂に馴染んでいたらしいことに、ぼくはちょっと驚いた。
しばらく話したところで、ふいに新くんは思いだしたように言った。
「お土産とかってもらった飴があったんだ。たべる?」
「あ……うん、もらう」
ちょっと疲れていたから、甘いものが欲しくなってたんだ。
新くんは立ち上がって机の上の袋からちいさい桃色の飴を取り出すと、ぼくに手渡してくれた。
「ありがとう」
ぼくは早速つつみを開けて、飴を口に入れた。
新くんはぼくの横に立ったまま、ぼくの行動を見守っていた。
「よかったな」
「何が? あ、飴をもらえて?」
ありがとう、とぼくが言いかけたところで新くんは思い切りふき出した。
「ち、違うって……、いくら俺でも、そこまではや……託生を馬鹿にしてない、って……」
新くんはなおも笑い続けていたけれど、やがて大きく息をついて呼吸をととのえると、おだやかな笑顔のまま、ぼくをまっすぐに見て言った。
「じゃなくて、体は二年前に戻らなくて、よかったな」
「……あ」
そうだった。
どうしてこんな大事なことに気づかなかったんだろう。
飴をもらうときに新くんの手が触れても、何も感じなかった。
人と接触することが、あんなに辛かったはずなのに。
「昼間から託生の様子を見ていて、無理に我慢しているようにも見えなかったし、どうやら体は平気みたいだなって思ってたんだけど。だから、テストさせてもらったんだよ」
そう、新くんは当のぼくよりも先に、ぼくのことに気づいてくれたんだ。
なぜだろう。こんなことが、以前にもあったような気がする。
急にどきどきしはじめたぼくのとなりに、やや距離をつめて新くんが座った。ベッドの上、手のひら程度の距離。新くんはじっとぼくをのぞきこみ、やがて右手をあげるとゆっくりとぼくの腕にふれた。





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