混乱して後ずさるぼくはギイに詰め寄られ、とうとうドアとギイとにはさみうちにされてしまった。ぼくを囲むようにドアに手をついたギイは、やや憮然とした表情で言った。
「呼べよ。呼べば、わかる。オレがお前を愛しているかぎり、お前は絶対帰ってくるって言った。オレはお前を信じてる」
あ、愛? 誰が、何だって!?
一体なにが、どうなっているんだろう。この二年間に何があったんだろう。ギイが何を考えているのか、ぼくには想像もつかないけれど、それはたぶん、記憶がないせいだけではない気がする。
「崎、くん、君が、何を言っているのか、わからないんだけど」
「わからなくていい。はやく呼ばないと、キスするぞ」
な、なんですと。
「……ギイ」
そう呼べばいいだけなら、と観念し、ぼくはやっと、彼の名を呼んだ。
その瞬間、ギイはこの上なく幸せそうに微笑んで、ぼくの唇にくちづけた。
「わっ! よ、呼んだら、しないって」
「そんな約束はしていない」
どうやら——ギイは、いじわるだ。
非難がましく見あげると、ふふ、と笑って、またぼくにキスをする。
「ちょ、や、やめ……崎く……」
またキス。
ふれては離れ、また触れて、何度も確認するかのようにくちづけると、やがて強引なおとないがしのびこんできた。
ぼくは気が動転する寸前で、心臓は痛いくらいにはねまわっている。
力なく抵抗を試みても、あっさり手は捕らえられて背後のドアにぬいとめられ、ますます深く口づけられてしまう。
「ふ……、」
つい、甘い声が洩れる。
初めてのはずの彼のキスに、その感触も、感じてしまう衝動にも、嫌悪など全くなく——ちがう、だってギイはこんなに美男子だから——ちがう、そうじゃなく、ギイは——
「…………あ……」
ぼくは彼の背中に腕をまわし、ぎゅっと抱きしめた。
名残惜しそうに離れる唇に、やっと目をひらくと、なつかしい茶色の瞳がやさしい光をたたえてぼくを見つめていた。
「ギイ……二年、じゃなくて、二日ぶりだね」
「お帰り、託生」
ギイはそう言って、また情熱的なキスをくれた。
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