「なるべく、これまでと同じ生活をつづけた方がいいって。クラスメートや先生の顔を見ているうちに、思い出すかもしれないからって」
「なるほどね、じゃ、こうして部屋に篭っているより、知っている奴に会った方がいいのか」
「うん……」
でも果たして、ぼくにわかるだろうか。
もともと人の顔や名前を覚えるのは、あまり得意な方ではない。
今の――一年生の時のクラスメートだって、全員覚えている自信は全然ないのに。
そんなぼくの心配を知ってか知らずか、三洲くんは時計を確認し、ぼくを振り返った。
「そろそろ夕食の時間だし、食堂に行ってみる? 葉山の知り合いも、居ると思うし」
正直人の多いところへ行くのはあまり気がすすまないけれど、おなかも空いてきた。
「うん、行く」
ぼくは三洲くんと連れ立って、通りがかる人たちに次々に声を掛けられながら、食堂へ向かった。
「葉山、元気出せよー?」
「お大事にな、葉山!」
「あ、ありがと」
ぎこちなく笑い返しているぼくに、三洲くんは歩みをとめて振り返った。
「葉山? 大丈夫?」
「う、うん」
なんだか、ぼくなんかに声を掛けてくれる人がこんなにいるというのが、うまく信じられない。
この二年間、ぼくは一体どんなふうに過ごしていたんだろう?
食堂に行くと、三洲くんはざっと見回して、ぼくの知っていそうな人を捜してくれた。
「ああ、丁度階段長が二人いる。わかる? あの柱の手前」
「あれ、吉沢くん? もしかして吉沢くん、階段長なのかい?」
「そう、四階長。それに、その横が一階長の矢倉、向かいに3B級長八津、3C級長蓑巌」
「他の人は、わからないや」
「あの辺は一年の時は葉山とは違うクラスだったからな。どうする、行ってみる? それとも、またにする?」
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