裏コイモモ
裏コイモモ:トップページへ




※パラレルちょっとイズタク(!)です。






×××Front Mission!!






「やっぱり部屋に戻ると落ち着くな」
「そうだね、ギイ」
 入れたてのコーヒーを啜りながら、二人は顔を見合わせてにっこりと微笑みあった。
 ギイこと崎義一は、葉山託生のこうした穏やかな笑顔を見るだけで、とても幸せな気持ちになれてしまう。
 二年に進級し、寮の部屋が同室となったことをきっかけに、ギイは長い間の片思いをようやく託生に告げることができた。やがて託生もそれを受け入れて、ギイの長年の片恋はようやっと実ったばかり、この世の春を謳歌している真っ最中――と、言いたいところ、であるのだが。
 ギイはマグカップを机の上に置くと、立ち上がって託生に近づいた。
「託生」
「うん?」
 ベッドに腰掛けたままギイを見あげ、ちょっぴり首を傾げた託生は、たいそうかわいらしい。
 ギイはにやけそうになるのを我慢しながら、マグカップの湯気に染まった託生の頬を、ひとさし指でつっついた。
「桃みたいだな」
「ギイったら」
 託生はくすくすと笑いながら、ギイのいたずらな手をさえぎろうとして、そのまま手をとられてしまう。
「ギイ」
「託生……」
 手を握ったまま、そっとかがんだギイの目的を察して、託生はあわてて身体をひいた。
「だ、だめだよ、ギイ」
「どうしてさ」
 託生は理由を答えずに目を逸らしてしまう。
「託生はオレとキスするの、いやなのか?」
「い、いやじゃ、ない、けど……」
 こまったように言葉をにごす託生に、ギイは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、ちゃんと施錠したし。それに、今日は生徒会の役員会だから」
「ほ、ほんとうかい?」
 まだ少し迷っている託生からマグをとりあげてサイドに置くと、改めて、ギイはそっと顔を近づけた。
「託生……」
「託生ー!!!」
「「わっ!!!」」
 二人はあわてて離れ、突如として部屋の中に出現した闖入者を見た。
 闖入者は線の細い美形だったが、怒りを露わにしている様子はたいそう恐ろしい。
「崎、またろくでもないことをしようとしていたな!」
「まだ何もしてませんよ。それよりどうやって鍵を開けたんですか」
「寮監に合鍵を借りた。寮生の緊急事態だったからな」
 ギイはあきれたように大きく息をつくと、頭をふった。
「この寮の安全管理は一体どうなってんだ」
「わが最愛の弟が不逞の輩に狙われているんだ、充分に急を要しているだろう。兄としては当然の処置だ」
「何が兄として、だ。どうせ生徒会長の職権を濫用したんだろ」
「託生に不埒なことをしでかそうとしてたくせに、偉そうな口をきくんじゃない」
「オレが何をしたってんだ。託生の嫌がることなんか一度もしたことないってのに」
「不純同性交遊は、校則違反だろうが」
 尋常ではない行動に見合わぬ至極まっとうな反論に、ギイは流石に言葉につまってしまった。
 闖入者の名前は、葉山尚人。祠堂の生徒会長にして、託生のひとつ年上の実兄である。少々身体が弱いが何をやらせても優秀な尚人は、全校からの信頼も厚く人格者で通っていたが、弟の溺愛ぶりに関してだけはちょっと、いやかなり常軌を逸していた。
 尚人はギイを押しのけて、託生の隣りにぴったりと寄り添って座り、親密に肩を抱き寄せた。
「託生、危なかったな。だがもう大丈夫だ、兄さんが来たからね」
「に、兄さん、あの……せ、生徒会は?」
「副会長に任せてある。託生が心配することはないんだよ」
 尚人は菩薩のような優しい笑みをうかべて、託生の頬をしっとりと撫で、ちゅっとそこにキスをした。ギイはとびあがるほど驚いた。
「ふ、不純同性交遊は、校則違反なんじゃないのか!?」
「何が不純だ! 麗しい兄弟愛になんてことを」
 何という理不尽。ギイはおおいに憤慨した。
 託生はといえば、困った様子で二人の顔を交互に見ていたが、キスされたことに驚いてはいないようだった。親愛のキスだとしても、ここは日本なのに、とアメリカ人のギイは思う。きっとこれまでも日常的に行われていたことなのだろう――それは正直、かなり悔しい。
 ギイは嫉妬まじりの複雑な感情にとらわれながらも、たぐいまれなる精神力をもってそれを押さえ込み、託生に向かってにっこりと微笑んだ。
「託生」
「ギイ」
 弟バカを排除するより、弟そのものを取り戻すほうが、多少は手っ取り早いだろう。
 なぜなら自分たちは、恋人同士、なのだから――ギイはその素敵な単語で自分をなだめ、改めて託生に微笑みかけた。
「託生、こっちに来いよ」
 手をさし伸べると、託生もおずおずと手を伸ばしてくる。しかし、そううまく事は運ばない。
「汚い手を近づけるんじゃない!」
 つながりかけた手を尚人にはたかれて、ギイは顔をしかめた。ひどい言われようだが、尚人にどう言われようとギイは構いはしない。だが、尚人の腕の中で困ったようにうつむいてしまった託生がかわいそうだった。託生は以前接触嫌悪症気味だったのだが、それはきっとこの兄のせいだろうとギイはふんでいる。弟バカのこの兄は、弟をひとりじめするために、よその人間が如何に不潔で俗悪で狡猾でエトセトラエトセトラ、かを長年にわたって教え込んできたらしい。
 ギイはムカムカと腹を立てながら、尚人をぐっとにらんだ。
「あんた、もっと託生の意思を尊重しろよ」
「言われるまでもない。だがお前だけはだめだ! お前みたいなうさんくさい男が託生の恋人だなど、ゆるさん!」
 こっそりとベッドから立って、ギャーギャーと言い争いはじめた二人から距離をとり、託生は黙ってその様子を見守った。託生が口をはさむと、どうせ余計にややこしいことになってしまうのだ。
 はあ、ともう何度目かのため息をついたところで、どん、と背中に衝撃をうけた。
「はーやーまっ」
「わっ」
 突如背中にかかった重みに、託生は前のめりに倒れそうになる。抱きとめられて振り向くと、級友がいたずらっぽい顔をして覗き込んできた。
「ドア開けっ放しで、何やってんの」
「た、高林くん」
「泉って呼べったら」
 自分より少し小さいくらい、かわいらしい泉にうりうりと頭を撫でられて、託生もつい頬をゆるませてしまう。
 高林泉は、祠堂一の美少女、もとい美少年だ。クラスが一緒になったこともないのに、なぜか託生を気に入って、こうしてしょっちゅう構いにくるのである。泉は託生の背中に抱きついたまま、相変わらず争っている二人を覗くと思いっきり顔をしかめた。
「なに、またあの二人? 最近、とみに争いが熾烈になってきてるよね」
「そうみたいだね」
 年度始めに託生に告白して以来、ギイは尚人の要注意人物リストのナンバーワンに躍り出ていたのだが、託生が告白を受理してしまったことを知ってからは、更に赤丸でチェックが入れられていた。最初の頃は託生の血縁者ということで尚人に遠慮をしていたギイも、最近では大いに反撃するようになってきた。
「あの二人が仲悪いと、葉山も困っちゃうよね」
「うん……」
 託生の肩に小さな顔をのせて何やら考えていた泉は、託生の背中につかまったまま、そっと耳もとにささやいた。
「僕、葉山のこと、気に入ってるから」
「え?」
 ぱっと手を離した泉は、かわいらしく微笑んで、醜い争いを繰り広げている二人に一歩近づくと、大きな声を出した。
「ったく、なにしてんの?」
「高林?」
 今気付いた、という風情の二人に、泉は腰に手をあてて、あきれたように大きなため息をついた。
「また葉山の取り合い、ってやつ? 生徒会長に評議会委員が、なっさけなーい」
「君には関係のないことだろう」
 むっとした表情の尚人に向かって、泉は容赦なく鼻で笑って見せる。
「ていうか、なんで? 前から思ってたんだけど、葉山って、わざわざ取り合うほどの『物件』?」
 くるり、と向き直り、馬鹿にしたような表情で託生の頭からつまさきまで検分する。
「顔も十人並みだし、勉強もいわずもがな、だし、天然だしどんくさいし。べつに性格だって超親切、とかでもないし?」
 託生はうっ、と呻いた。泉の言うことはいちいちもっともで、というか、なんで自分なんかを兄やギイがあんなに構うのか、という疑問は、常々託生も思っていたことだったのだ。しかし改めてこうして言葉にされると、ちょっとショックである。
「好き嫌いは多いし、記憶力は『ない』し、超寒がりだし。コーヒーにはミルク入れるし、バイオリンなんて弾けるらしいしー」
 だんだん何だかわからなくなってきたが、尚人とギイはいとも簡単に激昂した。
「高林、お前っ! 俺の弟に対して、非礼にも程があるぞ!」
「そうだ、それに何でそんなに託生に詳しいんだ!」
「こんなごくフツーの葉山取り合って、楽しい? せめて僕みたいなアイドル級にかわいい子、取り合ったら?」
 にっこりと特上級の微笑みをお見舞いして、泉は足取りも軽く部屋を出て行った。
 取り残された体の三人のうち、最初に口をひらいたのは、後輩に言いたい放題言われて呆然としていた尚人だった。
「な、なんなんだあれは! 託生、なぜ言い返さないんだ!」
「や、だって、泉の言うことは、もっともだと思うし」
 怒りに頬を紅潮させて詰め寄る尚人に、託生はたじたじとなりながらも言い訳した。
「何がもっともなんだ。あんな生意気なちびより、お前の方がよっぽどかわいいじゃないか!」
「何言ってるんだよ、兄さん」
「いや、尚人さんの言うとおりだ」
 呆れている託生の横で、ギイはうんうんと頷きながら、腕を組んだ。
「託生はな、目は黒くてでっかいし、色白で肌もきめ細かいし、髪だってサラサラだし、ときどき寝癖してるけど、とにかく託生はかわいいんだ!」
 ギイまで一体何を言い出すのか、と託生は更に呆れてしまう。だが、そんなギイに熱く共感している男がいた。
「崎……君、よくわかっているみたいだな」
「ああ、あんたもな」
「そうなんだよ……託生はかわいいんだよ! いい年してニンジン嫌いなところとか、牛肉より鶏肉が好きなところとか!」
「やっぱそうだよな! コーヒーはブラックで飲めないし、小岩井のはちみつ牛乳なんて好きだし!」
「君、よく知ってるな!」
「基本だろ!」
 フッと不敵に笑ったギイに、尚人もニヤリと笑いを返す。
 かくして、男たちはがっしりと握手をかわし、解り合ったのだった。
 その横で託生が盛大なため息をついていたことは、誰も知らない。











---
 ……あれ!?イズタクでした…!?
 尚人さんの設定に関しては、きっと既に何度も使われているパラレルネタでしょう…(笑。どうもアレな人になってしまってすみません…でもギイもアレな人ですね。シリアスではなく尚人ものを書こうとすると、どうもアレになってしまう気がします…。
 泉は泣いた赤鬼ですか。一番オトコマエ(当社比)になってしまいました。

8

せりふ Like
!



裏コイモモ
裏コイモモ:トップページへ