アフロディーテはテーブルに手を置いて、心持ち身を乗り出した。
「デスマスク」
「つまらねえ男で悪かったな……お前をがっかりさせてよ。でも、」
 デスマスクは立ち上がり、ゆっくりとテーブルをまわってアフロディーテの横に立った。アフロディーテの視線はそれを追って見つめたまま、男を瞬きもせずに見上げる。デスマスクは視線を逸らし、口の中で呟いた。
「――ったんだよ」
「え?」
 ほとんど聞き取れなかった呟きに首をかしげ、アフロディーテは問い返す。
「デス、なんて?」
 デスマスクは無言のまま脇を向いていたが、ややあってゆっくりとこちらに向き直り、じっとアフロディーテをみつめた。
「これで……お前の気を引けるかどうかわからねえが」
 そう言って、すっと手を差し出す。視線を下げたアフロディーテは、目をみはった。
「やるよ、アフロディーテ」
 デスマスクのてのひらには、細い金色のリボンが巻かれた黒い小さな箱があった。
 アフロディーテは言葉を失って、まじまじとそれを見つめた。
 どう見ても、装身具の入った化粧箱だ――これを、自分に?
 プレゼントの要求までは流石にしなかったので、これはデスマスクが気をきかせてくれたのだろう。だけどそれが、しかも。それが、装身具だなんて。
 慌てて見上げると、男は照れたような怒ったような顔で、そっぽを向いていた。
「これ、を……くれるのか、わたしに」
「そう言ってるだろうが」
「……ありがとう。開けても構わないだろうか」
 吐息のような返答を待たず、アフロディーテは箱を受け取り開きにかかった。箱の形状からもしやと思ったが、やはりリングだ。自分の心臓の音がうるさくて、外の音がよく聞こえない。震えそうな手を叱咤してリングケースを取り出し、おそるおそる開ける。


 それは、確かにまさしく指輪だった。
 しかも、たいそう趣味の悪い。