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4月の子










菫が咲くのだ。
菫だけではない。タンポポが咲き水仙が香り林檎の蕾は膨らむ。
燃え残りの火のように白い花弁のうなだれた桜の枝から新しい火のような若葉が噴き出す。

僕は4月のこの日に生まれたのだという。
言った人間からすると信憑性は低いかもしれない。でも季節までは間違えないだろう。
僕はこの季節のこの日に生まれたのだという。

さあまた廻って来たんだ。4月だ。
絵に描いたようなバースディ・パーティやプレゼントがなくともそれが何だと思っていた。
たいしてよく知らない女の子たちから貰うようになってもやっぱりそれが何だと思った。

僕は授業をさぼり中庭を横切り、木立を分けて小さな丘に向かう。
頬が熱い。胸が苦しい。自分の腕で自分をぎゅっと抱きしめながら。
去年より確実に広く厚い肩を感じながら。

この季節に生まれたものは僕だけじゃないんだ。
この季節にとくべつ望まれもせず生まれたものは僕だけじゃないんだ。
大騒ぎもなく。だけどそれが何だ。
僕だけじゃないんだ。
ああもう涙が出そうに。

花をつけるものだけではない。
3月に温められた樹液は勢いよく廻り出し枝になり葉となって爆発する。
なにもなかった地を覆いつくして柔らかな青草が天に向って伸びる。
その憧憬には果てがない。理由もない。人の足に踏まれても。

廻ってくるその度ごとに、僕の誕生を記念する新しい春ごとに。
新しい底なしの希望と命をそこらじゅうから噴き出させている僕の兄弟たち。
葉の縁をなぞり幹を撫でると意志さえ通じる僕の姉妹たち。

(なにかが来るのだ。……なにかを起こすんだ。その時が来たんだ。
 僕の肩はこんなに立派になり、もう誰にも負けないんだ。
 血の沸き立ちかたが今年は去年までと違うのだ。)

頭の皮膚がちくちくする。僅かに熱い。
最近、級友たちにつつかれてからかわれる僕の髪は、風になびく雑草と同じように、猛烈に太陽を意志している。
陽光の色に! ――突然変わりはじめたんだ、母親からもらった闇の色から。
伸びるスピードも普通じゃない。

(意志しているんだ、闇の底から、光、太陽を、こんなに、こんなに)

柔らかい丘の上にうつぶせに倒れると、胸いっぱいの草いきれに、頭の底は冷たく冴えかえってゆく。
時が来たのだと思う。
体の下に敷いた草へ気持ちが伝染して、ざわざわと騒ぎ、てんでんばらばらに伸びはじめる、僕の背中を頬を打つ、くすぐる、鼓舞するように。

(大丈夫、ここでは誰も見ていない)
(いや、見ていたからって何なのだ? 見せるんだ。僕は見せてみるんだ。
 きっと誰かに出会う――人間に出会う。
 兄弟たち姉妹たち、僕は、もうまっすぐに人間に出会うだろう。はじめて。はじめて。)

さあまた廻って来たんだ。4月だ。
僕はこの季節のこの日に生まれたのだという。
でもその意味をほんとうに知るときが来たんだ。











+後記+
ジョルノ、お誕生日おめでとう!!という気持ちだけで突っ走り、ひどい舌っ足らずですが…。
時期的には5部が始まるちょっと前です。よく考えると髪の色が変わるというのは象徴的ではありませんか。
4月生まれっていうのはイイ!と思います。ジョルノが4月の人っていうのは、アバッキオが3月の人というのと同じくらい納得します。わたしは5月のはじめ生まれなんですが、人より誕生日が早く来るのは損することが多いのでずっと嫌で、しかし季節を考えるようになってからちょっと好きになりました。だから4月生まれには一種特殊な尊敬を抱いているし(そして3月生まれには届かぬ憧れがある)、おおやっぱり4月だったか!という人が多い気がします。



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