ベリッシマ
☆これはクロエさんのエピソードつきイラストの続きとして発想されたものですので、 先にそちらをごらんになることをおすすめします。
「ただいまっ! 遅くなってすみません!」
「……」
「なんですかどうしたんですか? 僕はそんなに遅れましたか? どうしてこっちも向いてくれないんですか? ね、どうして、こっ、ちも、てッ」
「……気安く触るんじゃねえッ」
「……現状がどうであろうとこれまでの道筋を完全無視してふりだしにもどす、そんなあなたの無茶苦茶っぷりが好きですよ、いつも、mio gattino(僕の子猫)。
そして僕はそんなあなたのために百万回だってまっさらな気持でもう一度言うでしょう、さあッ周りを見てごらんなさい! ここは僕の部屋! バスルームにはふたりぶんのバスローブと歯ブラシ! そしてあなたの耳と尻尾、わっ」
「るせえ言うなッそれを!」
「危ないなあもう、その雪花石膏みたいな肌の底にそれだけ血の気が余ってるなんて、僕の他は誰もしらないでしょうね、と思えばまあ悪い気はしませんけれどね。ねえ、うッ、危ないって言ってるでしょう困った猫ですね、素直になって自分の白い綺麗な耳を御覧なさい、」
「お前がやったんだろうが! いい加減戻せこのガキ!」
「いやです」
「……いやですじゃねえ。本当にガキかよお前」
「ガキですよ。ご記憶か知りませんがあなたより五つ下ですよ。この世界じゃ冗談にしかなりませんが一応法的に未成年ですよ。そのガキが毎日パッショーネの大看板背負って神経すり減らしてるんです。自分の家で悪戯のひとつだってしたくなります」
「悪戯かよ」
「そうです悪戯です。でもガキだから真剣ですよ。……こっちに来てください」
「……」
「ね、お願いだから僕の白猫でいて下さい。さあ、おいで」
「……」
「ふふッ。何故言うことを聞いてくれるんだろう? あなたの弱点ですね」
「こんなの弱点って言うかよ。お前がガキだからだ」
「急いで追い越しますよ。手始めは背丈からね。……ねえ、耳のここ。こうするとどんな感じがするんです?」
「べ、つに、普通に髪梳かしてんのと変わんねえよ」
「声が嘘ついてる」
「何だと、こら、やめ、」
「嫌です」
「や、め、ろっていって、るだろッこら!……ッ、」
「やめません。ああ僕帰って来てよかったなあッ、ね、毎日そう思ってるんですよ? ほんとです。こんな気持ちを陳腐だとか言うやつは猫を飼う資格ありませんよ」
「…ったく、本当にただのガキだな」
「猫一匹飼ってるだけで僕の隠れ家は聖域です。さあ、いつもの儀式を」
「はあ?」
「ただいまのキスがまだです。まさか忘れてたんじゃ?」
「何のことだそれは」
「まったく天然で焦らすんですからね、この猫は。わっ」
「寄るな」
「既にこの状況で何を言うんですか」
「うッ」
「あッ今のは苛める積もりじゃなかったです」
「……うるせえないちいち女かよてめえは、」
「男ですよ。よく知ってる筈でしょう? ね、」
「……」
「嫌なんですか?」
「……」
「ほんとに嫌なんですか?」
「……」
「何故、」
「別に、」
「別に?」
「……酒臭えんだよ」
「あ、」
「ガキのくせに酔っ払ってんじゃねえ。大体今日はやけにぺらぺら喋ると思ったら」
「分かりますか。……ごめんなさい」
「わかりゃいんだよ」
「ちょっと苛々してたものだから」
「……何か、あったのか?」
「聞いてくれるんですか?」
「ああ聞いてやるよ」
「ふふッ。打ち合わせの後、一人で残って少し飲んでたら、つまんない女にからまれたんです。しつこくてね」
「おいおい。そんな事で動じるなんてやっぱりガキはガキだな」
「まさか。たかがうるさい女くらいで動じやしません。でもね、その女が聞くんです、根掘り葉掘り。頭来て」
「何を」
「何だと思います?」
「知るかよ」
「……当てたら人間に戻してあげてもいいです」
「何ッ」
「乗りますか」
「乗ったッ」
「さあどうですか? 何か思いつきます?」
「……実はその女が対立組織の工作員で、」
「あ、イイ線いってます」
「ふん、バカにすんなよ。……ガキだから簡単な色仕掛けでぺらぺら喋るだろうとナメられてんのが見え透いてた」
「ハズレです」
「うっ」
「いいでしょう、もう一回チャンスをあげます」
「よし、そいつはお前がほんとにボスだとははなっから信じちゃいなくて、後ろで操ってる人間がいると思い込んで探ってきた」
「それもハズレです」
「くそッ、おいそれじゃあ、」
「いえだめですだめです、もう止めましょう。ふふ、あなたは絶対当てられませんから」
「何だとッこら」
「それでこそ僕の、」
「で、結局何だったんだよ」
「知りたいですか? 僕の家にいる大事な白猫についてです」
「!」
「さあもういいでしょう、喋り疲れました。僕の口を塞いでいただけますか? ま、多少甘ったるい匂いはするかもしれませんが」
「自分の手で塞いどけそんなの」
「ああその察しの悪さが堪らなく好きです。恥ずかしいからもう喋りませんよ。こうやってです」
………
+後記+
2005年度幹部お誕生祭で、わたしのSS「魚獲る男」からゆずりさんが猫アバイラストを起してくださって、さらにジョルアバ・ヴァージョンも描いて下さって、嬉しさ余って続きをかきました。いや、でも先行するゆずりさんのテキストが会話オンリーだったので、わたしも挑戦してみたのですが、なかなかに難しかったです…。ほんとは女性向け指定つけるくらいハジけたものを(だってどうせ完全パラレルだしねえ)、と思っていたのですが、会話だけだと恥ずかしすぎて無理でした。…アバが喋らないんですよ。
でも年下攻・敬語の長台詞を打つのがすごーく楽しかったですよ!!