「どう思うよ」
「どうって、何がだ」
「アレだよ」
「アレ?」
 シュラは眉根を寄せて首をかしげ、首をかしげるのも当たり前だと思うのだが、おれはだだっ子みたいに口をとがらせた。
「ほら、アレだよ、わかんだろ」
「アレか」
 シュラは深々と頷いた…ほんとにわかってんのかこいつ。
「そう、アレ。何なんだよ、あいつ。生き返って、どうかしちまったんじゃねえのか」
 ああ、と頷き直した…やっぱりわかってなかったんじゃねえか。
「まあ、おかしいのは確かだな…前から変わったところのあるやつだったが」
「そりゃわかってるけどよ、生き返ってからはちょっと常軌を逸脱してるだろ」
「お前、そこまで言うか」
 シュラは三本目のワインを最後の一滴まで自分のグラスに注いでしまうと、おれに振り返った。
「おい、もうないぞ」
「おれはお前の嫁か…もうここいらでよしとけよ。夕方からまたミーティングだろ」
「何だデスマスク、お前らしくもない…あ」
「あっ」
 獅子宮からの階段を降りてきた妙にきらきらした人影は、テラスで飲んだくれているおれたち…いや、おれを見つけると、にっこり微笑んだ。決して自意識過剰ではないはずだ。
「やあ、デス」
 本当、薔薇が咲きほころぶみたいに笑いやがる。クソったれ。
「アフロディーテ、昼飯は食べたのか、まだなら一緒にどうだ。デスマスクのつくったイタリア料理のナントカという焼き物があるぞ」
「本当か、わたしがいただいてもいいのだろうか」
 おれの口の端がひくりと痙攣した。シュラのやつ、一体何を言い出す気だ。こいつがおかしいって同意していたクセに…思えば、シュラは昔からこいつに甘い気がするぞ。
 このおかしな、おかしくなってしまった魚座とわざわざ同席しようだなんて冗談じゃあない。そんな内心のおれの苛立ちは届かなかったらしく、シュラはのんきな顔でおれに問うた。
「構わんだろう、なあデスマスク」
「…別に、好きにしろよ」
「そうか、ではありがたくいただくことにする」
 …畜生、魚座はまた花のように美しく微笑んだ。